ピッチドパドルミキサーによる擬塑性流体の混合のCFD解析

ピッチドパドルミキサーは傾斜パドルミキサーとも呼ばれ、小型の手漕ぎボートで使われるようなパドルを45°傾斜させた形状をしています。回転方向の流れに加え、軸方向(上下方向)への流れがあり、低粘度から中粘度までの混合に利用されています。

処理液の粘性については、シロップやはちみつなどのニュートン流体もありますが、ミキサーで撹拌する場合は、液体に個体の粉体や液体の高分子など、複数の材料から構成されることがほとんどです。このような複合材料の場合、処理液は非ニュートン流体となることが多く、せん断で粘度が低下する擬塑性流体が代表的です。

今回は処理液に擬塑性流体の増粘剤2種類と比較用にニュートン流体2種類を用い、次のミキサー条件でCFD解析を行い、CFD解析に影響を及ぼさない粒子マーカーを用い混合性等を確認しました。

翼先端周速
V tip[m/s]
2
処理液1%増粘剤、2%増粘剤、1 Pa・s、10 Pa・s
密度[kg/m3]1000
粒子マーカー質量体積なし
粒子マーカー
開始タイミング
流れ形成後

処理液のレオロジーを次に示します。増粘剤は水溶性高分子で1 s-1程度の低せん断速度(γ)領域で最大粘度を示し、静置状態で角がたたず、レベリングする特徴があるものです。幅広い用途で用いられておりますが、わかりやすい例では塗料です。高せん断速度については、1000 s-1程度から測定不可能になるため予測値です。水溶性なので水の粘度である1 mPa・sを下回らないように設定しています。

撹拌中の粘度と動力について、確認した結果を次に示します。1%増粘剤と2%増粘剤の粘度は、翼の周りが周囲よりも低くなっており、せん断によって粘度が低下している様子がわかります。処理液の液面も少し粘度低下しておりますが、これは計算手法による誤差です。それぞれ1%増粘剤と2%増粘剤の動力をにニュートン流体と比較した場合、擬塑性流体の増粘剤はニュートン流体よりも動力が低い様子もわかります。

次に粒子マーカー初期位置上側について、経過時間で確認した結果を示します。粒子マーカーの移動から、1%増粘剤と1Pa・sで概ね同じ流れがあります。同様に2%増粘剤と10Pa・sでも概ね同じ流れがあり、100周後では翼から遠い容器底部に粒子マーカー未到達部があることがわかります。

次に粒子マーカー初期位置上側について、同様に経過時間で確認した結果を示します。粒子マーカー初期位置上側と同様に、1%増粘剤と1Pa・s、2%増粘剤と10Pa・sで概ね同じ流れがあり、100周後では翼から遠い容器壁面に粒子マーカー未到達部があります。これらのことから、1%増粘剤と1Pa・sでは、100周後の約26秒でわずかな粒子マーカー未到達部がありますが、数十分以内で十分混合か可能であると考えられます。一方2%増粘剤と10Pa・sでは、粒子マーカー未到達部が広く流速1mm/s以下の領域も広くあるため、混合には長時間必要になると考えられます。

最後に以上の結果を動画にまとめたものを示します。粒子マーカーがしだいに翼に寄り集まってしまっているのは、解析メッシュの解像度不足による誤差だと思われます。

ピッチドパドルミキサーによる擬塑性流体の混合をテーマにCFD解析を行いました。ピッチドパドルミキサーによるフローパターンのイメージと擬塑性流体の挙動をイメージできたと思います。今回は擬塑性流体とニュートン流体で概ね同じ流れを示しましたが、撹拌の目的や処理物、サイズスケールによってこれらは大きく変わります。混合不良の課題や動力予測などございましたら、ぜひ弊社へご相談いただければ幸いです。CFD解析では撹拌挙動を可視化することで直感的な理解が容易にできるメリットがある一方で、コンピュータによる架空のシミュレーションであることから、なんらかの妥当性検証が不可欠です。今回の例でも処理液のサンプリングなどにより検証が可能と考えられます。